所蔵者 | 国立公文書館 |
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請求番号 | 経050-0004 |
冊数 | 5 |
画像枚数 | 346 |
画像撮影 | 株式会社インフォマージュ (国立公文書館の委託による) |
撮影日 | 2017-11-24? |
国立公文書館より受領した 8 枚の非圧縮 TIFF 画像入り DVD をイメージ化し、可逆圧縮を加えたもの
陳士元の著した叢書 (歸雲別集) の一種 (第十九〜二十五)。續修四庫全書 第238冊に萬暦刻の歸雲別集本が掲載されている (四庫全書総目提要 (存目) で解題が記されているものもこの種の本か)。版面の状況から見るにおそらく国立公文書館蔵本はこれと同版である。“歸雲別集” に関する言及 (例えば巻一巻頭の“歸雲別集十九”) は対応する箇所の紙を切り取ることで除去されているらしく、これは印刷元の版木では対応箇所が存在していたことを伺わせる。この処理は第5冊の“漢碑用字” “俗用雜字”の巻頭において特に明確だが、それ以外の箇所でも対応する痕跡を発見することができる。この処理がいつ、誰によって行われたかは未詳 (杉本つとむ氏はこれが後から作られた単行本であると推測している)。
歸雲別集第一の姓滙 (道光年間重刊本) に陳士元による“萬曆歳癸未中冬日長至丁亥” (萬暦十一年 [1583]) 付けの序があり、この頃の刊本か。古俗字略序に引く書籍の中で最も新しい六書精蘊が嘉靖十九年 [1540] 後序。著者である陳士元は萬暦二十五年 [1597] 没で、俗書刊誤 (萬暦三十八年 [1610] 序) の巻十一に本書の附録である“俗用雜字”が“歸雲集”として引かれている。
本書 (国立公文書館蔵本) の影印に異体字研究資料集成の第2期第8巻がある (宋元以来俗字譜と合刊)。詳細な解題、書誌等はそちらを参照されたい。
この他に、歸雲別集の道光十三年 [1833] 刊の重刊本がある。前述の續修四庫全書において、一部ページはこの版で補われている。この版は、Harvard-Yenching Library 所蔵のものを Google Books 上にて閲覧することができる。
1597 年没の著者の書籍であり、世界的にパブリックドメインの状態にあると推定。
著者である陳士元 (字: 心叔) が30年以上かけて集めたとある異体字の総集編である。編纂については明らかに五音篇海 (改併五音類聚四聲篇; 凡例では“篇海”とする) の影響を受けているものの、篇海以外からも多彩な異体字を集めている。序では多くの参考書を挙げる一方で、“余茲所録者皆今世常用之字”と、(どこまで信用してよいのか、あるいはどのような人間の間でのものかは明確ではないものの) 当時常用されていた字を収集したことを明確にしている。
凡例において、特に収録しなかったことが明確にされている字としては、次の二種が挙げられている (この他にも細かな字体差の一部を標準化することに関する凡例もある)。
この本が影響を与えた本には、次の二種が挙げられる。ひとつは、萬暦三十八年 [1610] 序の俗書刊誤 (俗書刋誤) である。前述の通り、この巻十一に本書の附録である“俗用雜字”が“歸雲集”として引かれている (順序等にやや異同はあるものの、基本的にすべてを引用したもののようである)。この“俗用雜字”は、正字通の引證書目に俗書刊誤の著者である焦竑の著書として挙げられている。もうひとつ、康熙五年 [1666] 序の字彙補はこの本と思われるものを、“陳心叔字略”もしくは“字略”として引いている (ただし私が確認した 6 箇所 [ただしうちひとつは古文四聲韻が引く“字略”の可能性がある] において全て細部の字形が異なる。字彙補は細部に疑問が残る字形を採用することが多いとはいえ全てを誤ることは考えにくい。その一方で、“字略”として引かれている資料が古俗字略とは別であることも [1 箇所除いて] 考えにくい。そのため、字彙補編纂の過程で用いられたのは本書の粗悪な写本であった可能性が高いと考える)。
附 (いずれも第5冊内): “古俗字略補卷又五”、“漢碑用字” 一巻 (版心: 字略卷六)、“俗用雜字” 一巻 (版心: 字略卷七)。
内容に誤りや疑問点は多いため内容の利用には注意を払う必要があるが、俗字研究の一資料として、無視するには惜しい価値があると考える。特に、他の資料において確認されていないような俗字の存在は、当時の俗字というよりは、文字利用のあり方の一端を示すものとなるだろう。